市町の広報紙は進化しています

行政に求められる多文化共生と合理的配慮

「多文化共生社会における合理的配慮」・・・小難しい言葉ですが、簡単に言ってしまうと、「日本に住む外国人も増えてきているし、日本人でもさまざまな障がいを持った人たちが暮らしているんだから、多くの人が分け隔てなく暮らしやすい社会にしようよ」ということですね。民間・行政に限らずこの考え方が普及し出していますが、特に行政においては合理的配慮が合理的配慮が義務化されています(障害者差別解消法)。
では行政は合理的配慮にどう取り組んでいるのか。行政の取り組みの中で最も身近に感じることができるのが広報紙です。

市町が発行する広報紙

全国の市町では「広報〇〇」というタイトルの広報紙を発行しています。行政の広報紙とは、その地域で暮らす上で必要となる情報を市民・町民向けに提供する手段の一つなのですが、この広報紙が近年かなりの進化を遂げています。
多くの市町では広報紙は自治会の回覧で回ってきて、それを世帯あたり1部ずつ抜き取って手にするのではないかと思うのですが、「回覧なんて手間だよね」「紙の広報紙なんて資源の無駄だよね」と言った意見が多いことも事実です。現代のネット社会において超アナログな紙の広報紙は確かにそのような批判を受けてもしょうがないのかもしれません(そして遠くない将来、紙の広報誌は無くなる運命かもしれません)。
しかしです。行政はそんなことは百も承知(だと思うのですが)でして、全国ほとんどの広報紙は電子化されてネット配信されています。そして、ネット配信されているにも関わらず、ネット配信されていることを知らない住民が非常に多いことも事実です。
ネット配信の弱点というのは、「自分から見に行かないと見れない」「配信されていることに気付かない」という点にあります。その一方で、紙の広報紙の強みは「広報紙出来たよ」と無理やり押し付けてくることにあります。気付いていない人に気付かせる強みというのが紙(アナログ)の強みなんです。これは新聞折込チラシや DM・ポスティングチラシなんかでもそうですよね。強引に「見てよ!」とアピールしてくるのが紙媒体の強みです。従ってネット配信の弱みを補うためにも紙の広報紙と電子版のハイブリッド配信はもうしばらく続くのではないでしょうか。
さらに言いますと、電子配信される広報紙は単に紙の広報紙を電子ブック化しただけではありません。紙の広報紙では誌面の関係で割愛された情報も掲載されていることがありますし、外部コンテンツにリンクを貼っているケースもあります。要するに紙の広報紙以上の情報量でネット配信されているのです。
そしてそしてネット配信のすごいところは、日本語で掲載されている広報紙の情報をPC/スマホの音声で伝えてくれたり英語を始め他の言語に翻訳して伝えてくれたり、かなり「合理的配慮」がなされているのです。

あえて触れませんでしたが「魅力が無いから広報紙は必要ない」「読まなくても困らない」という意見も多いことも事実です。と言いますか、こっちの意見の方が多数派かもしれませんね。これは作り手(行政)のコンテンツ作りに問題があります。確かに読んでいてもつまらないですよね。行政にもこの点はもう少し頭をひねってもらいたいところです。良い悪いは別にして、広報はままつでNHK大河ドラマ”どうする家康”にちなみ、松潤の写真を表紙に使ったところヤフオクで転売(?)されるという現象が起きました。これほど広報はままつが全国から注目されたケースはかつて無いと思いますが、コンテンツ次第で広報誌のブランディングは可能だという一例だと思います。

掛川市・島田市・静岡市はすごい!(at 静岡県)

静岡県では掛川・島田・静岡の3市の広報紙が多文化共生・合理的配慮に積極的に取り組んでいると評価できます。この3市の広報紙は「CatalogPocket(カタログポケット」という無料アプリを使って電子配信されています。CatalogPocket(カタログポケット)」を使っている点がミソでして、このアプリを使うことで日本語で制作された広報が10の多言語に機械翻訳されて読むことができます。アプリ(またはブラウザ)で見ている人は自分の好きな言語を選択することで翻訳されたコンテンツが読めるのです。さらに、読むのが苦手な人は音声で聞くこともできます。誌面に掲載されたQRコードにはリンクが貼られていますのでリンク先へのジャンプも可能です。細かな文字も拡大して読めますし誌面に収まらなかった没画像が電子版では多数掲載されていることもあります。
掛川・島田・静岡の3市の取り組みは、行政の広報を在住外国人や障がいを持つ方々(視覚障害など)にも分け隔てなく伝えることに配慮している結果です。もっというと、市外居住者など紙の広報紙では配布できなかった人たちにも行政情報を伝えたいという意識の表れと言えます。

CatalogPocket(カタログポケット)

CatalogPocket(カタログポケットというアプリは(株)モリサワが提供している電子ブック配信アプリですが、多くは行政にて利用されています。全国で200以上の市町がカタログポケットで広報紙を電子配信していますので、行政の広報紙のデファクトスタンダードがカタログポケットだと言ってもいいのかと思います。
このアプリを開くと全国色々な地域の広報誌が読めるのも魅力です。
私はというと、各地の広報紙を英語版で開いて「誤変換を探す」というある種変態的な趣味を楽しんでいます。多言語変換は翻訳機による自動翻訳が大部分なので誤変換は仕方ないことなのですが、これ意外とハマります。以前(もうなくなりましたが)、「広報しまだ」が「Public Relations yet」と翻訳されていました(今は修正されています)。なんでこうなるのかずっと悩んで考えていましたが、「広報しまだ」が「広報紙まだ(未だ)」と機械翻訳されているんだと気がついた時はスカッとしました。

話が逸れてしまいましたが、カタログポケットという無料アプリは全国各地の広報紙が読めますのでなかなか面白いアプリだと思います。アプリをインストールしていなくてもブラウザから見ることも可能です。

カタログポケットはこちら → CatalogPocket(カタログポケット

これからも広報紙は進化していく

県内でも積極的に合理的配慮に取り組んでいる広報紙が掛川・島田・静岡の3市だといえるかと思いますが、広報紙は今後ますます進化していくと思います。先ほど「コンテンツがつまらない」という話をしましたが、やはり行政文書というのは堅苦しかったり専門用語だったりで日本人でも読みづらい部分があります。これをいくら多言語に翻訳しても翻訳精度が落ちたりして読みづらいのは一緒です。

話は少し飛びますが、日本に住む外国人にどの言語が一番伝わるかをアンケートした結果があります。英語・中国語・ポルトガル語・・・・・色々な言語(母国語)を持つ在住外国人がいらっしゃいますが、多くの外国人が答えた「言語」はなんだと思いますか。英語?

いえいえ、アンケートで最も多かったのは英語ではなく『簡単な日本語』でした。色々な国から日本に来て暮らしている外国人の方々は日本語に接する機会が多いわけです。従って、難しい日本語はわからないけど簡単な日本語(やさしい日本語)ならわかると答えた人たちが最も多かったのです。
この結果から、日本語で作られた広報をわざわざ多言語に翻訳しなくても、『やさしい日本語』に翻訳してあげれば(または最初からやさしい日本語で作れば)日本人はもちろん多くの外国人にも伝わると言えます。
やさしい日本語とは、難しい表現は使わず子供でもわかるような文章にする、読み慣れない漢字にはルビを振るなど、とにかく簡単な表現で表記する手法になります。

現在は多言語化や音声表現が広報紙(電子版)の主流ですが、今後はさらに踏み込んで「やさしい日本語」表記が広報の主流になるかもしれません。
行政の広報紙はどんどん進化しています。そして、意外と暮らしに役立つ情報が盛り込まれています。
皆さんにももっと広報紙に興味を持ってもらいたいと思う今日この頃です。

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